サードパーティ・トラッキングの排除がもたらした広告収益の向上:6ヶ月報告

本記事ではサードパーティのトラッキングを排除してから6か月たったオランダ公共放送(NPO:Nederlandse Publieke Omroep)の実例にもとづき、全てのパブリッシャーの方に有用と思われる情報を紹介しております。

広告パブリッシャーであるオランダ公共放送(NPO)から追加のデータが届きました。この分析から、サイトの規模にかかわらず、サードパーティのアドテクやトラッキングを排除が明らかに広告収益の拡大をもたらしていることが明らかになりました。

前回の記事でもご紹介しましたが、オランダ公共放送は2020年初めにウェブサイトからサードパーティのトラッキングを削除し、コンテキスト・ターゲティングのみを利用して広告枠を販売しています。その結果、オランダ公共放送と広告枠を管理する販売会社のSterの収益が飛躍的に伸びていることも前回ご紹介しました。

今回の記事では、6月の数字が追加され半年分の収益拡大の様子をまとめて見ています。オランダ公共放送の広告収益は、既にお伝えしていた5か月分の数字からさらに増えています。

ただ皮肉なことに、オランダ公共放送とSterが広告で収益をあげることができることを証明できたこのタイミングで、オランダ政府は今後数年のうちにオランダ公共放送を全額税金で運営するよう検討しているようです。

結果その1:サードパーティのトラッキングとアドテクを排除したことが広告収益向上につながった

オランダ公共放送とSterは、コンテキスト・ターゲティングのテストを繰り返した結果、非常に大きな売上げ増を実現することができました。しかも、カテゴリー内で圧倒的シェアを占めているサイト以外のサイトでも同様によい結果でした。これは、Sterがオランダ公共放送グループ全体の広告をまとめて販売できているせいもあるかもしれませんが、そのこと自体は2019年からかわらないため、2020年の収益の大幅増には関係ないと思われます。つまり、カテゴリーリーダー以外のパブリッシャーでも、オランダ公共放送が実現したような収益改善を再現することが可能だということです。

結果その2:パブリッシャーの規模に関係なく収益改善が可能

正当なパブリッシャーであれば、規模に関係なく同様の恩恵をうけることができます。というのは、オランダ公共放送は全国放送組織ではありますが、ウェブサイトに関してはオランダのトラフィックランキングの上位を占めるサイトばかりではないからです。

具体的には、カテゴリー内で国内上位5位以内(Similar Web1調べ)に入るオランダ公共放送のサイトは1つ(Nos.nl)しかありません。他のサイトは上位100位にも入っていません2。オランダ公共放送のサイトのうちSimilar Webがトラフィックを推計しているサイトを見ると、トラフィック順位は180位から5,040位の間です3。(注:以下の表には、NOBO からのデータも含まれています。NOBOは独自のパネルを持っておりこのパネルによるサイト訪問回数を集計しています。)

各サイトのカテゴリー別順位などと販売インプレッション数の伸び率には相関関係がありません。国内サイト順位、カテゴリー別順位、ページビュー数はサイトごとにさまざまですが、販売インプレッション数の伸び率は軒並み83%以上になっています(明らかな理由がある例外4を除く)

表:オランダ公共放送のサイトのページビューランキング

放送協会サイト 販売インプレッション数の増加率%5 国内順位6 カテゴリー内順位7 リーチ数8 ページビュー数9
nos.nl 86% 18th 3rd (“News”) 4,390,000 216,481
blauwbloed.eo.nl 71% no data 1st (of 2) (“Royals”) 793,000 6,030
nporadio1.nl 98% 419th 3rd (“Music”) 1,127,000 4,280
kro-ncrv.nl 83% 744th 1st (of 1) (“Dating”) 593,000 3,770
avrotros.nl 12% 180th 8th (“Entertainment”) 1,119,000 3,689
funx.nl 80% 1,296th 4th (“Music”) 790,000 3,526
vpro.nl 92% 610th 19th (“Music”) 769,000 3,168
nporadio2.nl 96% 997th 5th (“Music”) 699,000 2,874
home.bnnvara.nl 92% 206th 18th (“Entertainment”) 288,000 1,510
wnl.nl 89% no data 38th (“News”) 365,000 1,474
nporadio4.nl 99% 2,960th 12th (“Music”) 269,000 1,281
3fm.nl 94% no data 13th (“Music”) 247,000 1,173
bvn.nl 97% no data 20th (“Entertainment”) 153,000 820
powned.tv 88% 5,040th 48th (“News”) 62,000 299
omroepmax.nl 92% 4,539th 8th (“Opinion”) 54,000 190

Nos.nlがオランダ公共放送の販売インプレッション数の76%を占めていますが、その他の14サイトでもはっきりと販売インプレッション数の増加が起きています。例えば、オランダで5,040位のPowned.tvでも、販売インプレッション数は88%伸びました。Nos.nlは18位ですが販売インプレッション数の伸び率は86%です。

結果その3:コンテキスト・ターゲティングはパワフル

オランダ公共放送は、ジオターゲティング、フリークエンシーキャップ、クロスデバイス計測といった広告機能を一切提供していません。しかし、複数の広告主と様々なテストを実施した結果、広告効果は良好でした。その結果広告主からの出稿量は増加しました10。なお、プライバシーを保護したままこうした広告機能を実現する方法11も存在しますが、オランダ公共放送は今のところ一切採用していません。

オランダ公共放送は、個別広告枠に動画コンテンツの字幕からの引用などの詳細なメタデータを作成しています。Sterが広告主とテストをした結果が良好だったことから、オランダ公共放送が実施したコンテキスト・ターゲティングは極めて有効だったといえます12

結果その4:新型コロナウイルスにより市場が落ちこんだ結果、動画広告から静止画広告へ需要がシフト

2020年の3月の新型コロナウイルス感染症拡大により、オランダの経済も大きく落ち込みました。オランダの経済学者は景気が後退すると予測しました13。そのような中、オランダ公共放送はサードパーティのアドテクやトラッキングを排除する戦略で、前年同期に比べて大幅な広告収益の向上を実現しています。

新型コロナウイルスのショックによって広告市場も大幅に落ち込みました。その結果、インプレッションの動画と静止画の販売割合が変化し、静止画の販売インプレッション数が大幅に増加しました。一方動画の販売インプレッション数も前年同期比で伸びてはいますがコロナ以前の水準に比べると伸び率ははるかに小さくなっています。これは、世界中で大手ブランドが広告費を全体的に削減していることが原因と思われます14

最新のデータによると過去6か月で静止画広告の販売インプレッション数は174%も伸びました。なお動画広告の伸びは26%でした。

結論

以上の分析結果をまとめると、パブリッシャーにとっての重要な学びは以下の2つだと考えられます。

第一に、オランダ公共放送の例からわかるように、パブリッシャーの規模にかかわらず、洗練されたコンテキスト・ターゲッティングを採用することで効果をあげられること。

第二に、比較的小さいパブリッシャーにとっては、オランダ公共放送の複数のサイトをSterがまとめて販売しているように、評判の良い販売会社と提携してまとめてもらうことにメリットがあること。広告主や代理店が評判の悪い販売会社からわざわざ購入したりしない限り、パブリッシャーは規模にかかわらず自社の評判に応じて利益を得ることができます。

以前、私は政治家などがあつまる国際的な会合で、現在のアドテクは「正当なパブリッシャーの心臓部をむしばむ『がん』」であると証言し、以下の5つの問題を伝えました。

  1. オーディエンス・アービトラージ:正当なパブリッシャーのオーディエンスとオーディエンスのデータを盗み、売買し、アービトラージする仕組み
  2. 隠し広告:問題1を利用して、サイトの一番下の見えない部分に隠し広告をのせ課金する手法
  3. 搾取:問題1と問題2によるパブリッシャーの取り分の搾取
  4. アドフラウド:クロスサイトトラッキングの偽装による広告詐欺
  5. アドテク税:不透明なアドテクの手数料

今回の半年分のインプレッションの売上げと広告収益のデータによって、この「がん」を排除することで得られる効果がはっきりしました。オランダ公共放送は2019年より大幅に潤っています。新型コロナウイルスの影響で広告市場が落ち込んでいてもオランダ公共放送の広告収益は前年同期比で増えているのは見ていただいた通りです。

W3Cでは、アドテク業界からの企業が中心となって、将来的にサードパーティ・トラッキングのクッキーが廃止されたあとでも、トラッキングを継続するための方法を開発中です。彼らにも伝えましたが、これは、消滅する運命にある仕組みをなんとか維持しようとするあまり、論理や法律を無理にこねくりまわす愚かな行為です。また、この方法も基本的にアドテク業界の意向にそったものなので、大なり小なりパブリッシャーの不利益が生じるものです。

私も含めBraveは、サードパーティ・トラッキングが廃止されることを前提に、真剣にプランBに取り組むことを業界内に呼びかけています。

プランBの内容はシンプルです。ネット上の全てでトラッキングを廃止する、ということです。そうすれば、正当なパブリッシャーの収益を拡大しながら、「アドフラウド」犯罪者への収益流入を阻止できるようになります。サードパーティのトラッキングを排除することは、GDPRと今後のカリフォルニア州のプライバシー法に対して合法性を担保することにもつながります。

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